東京高等裁判所 昭和32年(う)1061号 判決
被告人 中久喜源重
〔抄 録〕
原判示第一の、被告人が森田実と共謀の上後藤清松を恐喝して現金一〇、〇〇〇円を交付させたという事実は、原判決の挙示する照応証拠によつて、優に証明することができ、記録を精査してみても、原判決の右事実の認定に誤ある廉は見い出されない。所論のごとく、判示後藤清松が預り証と引換えずに時計を所論アメリカ兵に引渡したことにつき、右後藤清松に過失があり、従つて、その過失によつて預け主の蒙つた損害を賠償する責任があるとしても、その賠償責任の履行を請求することのできるのは預け主たる所論の久保栄子であつて森田実でないことは、いう迄もない。しかし、もし仮りに、右久保栄子方のマネージヤと自称する森田実が久保栄子の代理人として後藤清松に対し右賠償の請求をするものと被告人において信じていたとしても、該請求をするに当り、相手方を畏怖させるような手段をもつてするときは、なお、刑法上恐喝行為として論じなければならないのである(昭和三〇年一〇月一四日最高裁判所第二小法廷判決参照)。しかり而して、被告人は右森田実と共謀の上、判示のごとく後藤清松を畏怖させた結果判示金員を交付させたこと、証拠上まことに明白であるから、右森田実と共に恐喝罪の共同正犯として刑法上の責任を負うべき筋合である。被告人にこの責任なしとする所論は、まつたく、独自の見解による主張であつて、とうてい採用するわけにはいかない。されば、論旨第一点は理由がない。
(中野 尾後貫 下関)